「肛門のあたりが痛い」「しこりのようなものがある」などと困っている方は、痔瘻（痔ろう）の可能性があります。

痔瘻は数種類ある痔のうちのひとつであり、放っておいて症状が良くなることはあまり多くありません。

正しい知識を身につけ、適切に、かつ早めに対処する必要があります。

この記事では痔瘻の症状や原因をはじめ、病院の受診方法や、普段からできる予防法などについて解説します。

さらに、痔瘻以外の痔についても紹介するので、「痔になったかもしれない」「自分の症状が痔瘻かどうか知りたい」とお悩みの方も、ぜひご覧ください。

痔瘻（痔ろう）とは？概要と原因を解説

痔瘻（痔ろう）は「あな痔」とも呼ばれ、直腸と肛門周辺の皮膚を繋ぐトンネルができ、そこから膿が排出される疾患です。

肛門の周りに膿が溜まることにより生じる「肛門周囲膿瘍（こうもんしゅういのうよう）」が悪化して痔瘻になるとされています。

膿が溜まる原因は肛門の組織に細菌が侵入することであり、その状態を引き起こすといわれているそもそもの要因が、肛門陰窩（こうもんいんか）への便の入り込みです。

通常であれば、肛門陰窩に便が入り込むことはありません。

しかし下痢をすることで便が入り込むと、大腸菌などを侵入させることがあります。

その際、近くに傷があったり、身体の抵抗力が弱まっていたりすると、肛門腺の化膿を引き起こすことがあるとされています。

そのまま症状が進行すると外部へと繋がるトンネルがつくられ、痔瘻となる可能性が高まるため注意が必要です。

痔瘻の症状

痔瘻になると、主に以下のような症状があらわれるとされています。

肛門周辺にズキズキとした痛みがある
肛門周辺に腫れやしこりがある
熱が出る（微熱～39℃）
おしりから膿が出て下着に付着する

これらの症状が見られる場合は痔瘻の可能性があるため、早めの対応が求められます。

女性も痔瘻になる？

痔瘻は男性に多い痔です。

排便の際に便が肛門陰窩に強くあたるのも、痔瘻の原因のひとつといわれていますが、女性より男性の方が下痢を起こしやすく、肛門陰窩に刺激が加わりやすいため、痔瘻を引き起こしやすいと考えられています。

ただし、割合は低いものの、女性も痔瘻になる人がいます。

そのため「痔瘻は男性がなるもの」と決めつけず、疑わしい場合は病院で診察を受けることが大切です。

痔瘻の治療には手術が必要！早めに肛門科・肛門外科の受診を

痔瘻は、自然治癒や薬での治癒がほとんど見込めない疾患です。

痔瘻と診断されたら多くの場合は手術が必要になるため、痔瘻を疑うときには肛門科・肛門外科を受診し、医師による診察を受けましょう。

痔瘻の手術には「切開開放術」「瘻管くりぬき術」「シートン法」といったものがあり、症状のあらわれ方によって、手術の内容や治療法が選択されます。

症状が軽い場合は日帰りでの手術も可能ですが、症状が複雑であれば入院が必要な場合もあるようです。

なお、「受診するのが恥ずかしい」と感じる女性の方は、女性専門の肛門科や、女性の医師やスタッフがいる病院を選ぶのも選択肢のひとつでしょう。

痔瘻を放置すると重大な病気に繋がる可能性もあるため、症状に気がついたら早めに医療機関を受診するようにしてください。

痔瘻の予防として取り組みたいこと

痔瘻を完全に予防するのは難しいのが現状ですが、それを前提とした上で、日々の過ごし方において予防として取り組めることもあります。

痔瘻は下痢がきっかけで生じる場合があるため、普段から下痢にならないよう気をつけながら生活を送りましょう。

下痢の予防として大切なのが、下痢になりやすい行為を避けることです。

アルコールの摂りすぎやストレスの蓄積は、下痢を引き起こすため注意してください。普段から、肛門まわりを清潔にすることも大切です。

また、慢性の裂肛（切れ痔）から痔瘻に繋がることもあるため、裂肛を発生させないための配慮も求められます。

便秘に気をつけることや、排便時に力みすぎないようにすることも、裂肛を予防する上で重要です。

裂肛については、次項でより詳しく解説します。

女性の方がなりやすいほかの痔にも注意が必要

痔瘻は男性の割合が多い疾患ですが、痔自体は女性の方がなりやすいといわれています。

以下では、女性がなりやすい痔について解説します。

女性に多い痔は「痔核」と「裂肛」

女性に多く見られる痔として、以下のものがあります。

痔の種類

女性が痔になりやすい理由として挙げられるのが、便秘になりやすいことです。

便秘のときに力んで排便しようとすることで、肛門を傷つけたり、うっ血が生じたりすることがあります。

また、便秘になる原因は多岐にわたりますが、女性特有の原因として考えられているもののひとつが、妊娠・出産です。

妊娠中に子宮が大きくなることで腸の活動が妨げられ、便秘を引き起こすことがあるとされています。

生理に伴う、黄体ホルモンの分泌量の変化も影響するといわれています。

そのほか、無理なダイエットによっても便秘が引き起こされる可能性があるようです。

女性に多い痔の対処法

痔瘻はもちろん、そのほかの痔の症状があらわれた場合でも、すみやかに肛門科・肛門外科を受診しましょう。

よくある痔ではなく、深刻な病気が隠れている可能性もあるため、自己判断をせずに医師の診断を受けることが大切です。

それを基本とした上で、以下に挙げる、自分でできる対処法にも取り組みましょう。

痔核または裂肛の場合は、布団などに横たわり、脚を軽く曲げた状態にして全身の力を抜きます。

そのままの状態で、しばらく安静にしましょう。

患部を温めると症状が和らぐことが多いため、入浴をしたり、使い捨てカイロで温めたりするのも効果的といわれています。

なお、痔瘻の場合は、温めると逆効果になる点に注意してください。

安静にしつつ、患部を冷やすと痛みが和らぐとされています。

また、裂肛・痔核ともに、市販薬でのケアも可能です。

肛門内側に注入する注入軟膏、外側に塗る軟膏、肛門に差し込む坐薬のほか、内服薬もあります。

ただし、どの市販薬が適しているかは症状によって異なります。

あくまで医師の診断を受けることを前提とし、ドラッグストアで市販薬を購入する際は、薬剤師か登録販売者に相談してから選びましょう。

女性に多い痔の予防法

女性に多い痔を予防するために、普段の生活において以下の点を心掛けましょう。

痔を完全に予防することはできませんが、これらの習慣を身につけることでリスクの軽減が期待できます。

便秘や下痢の原因となりうる行為を控える
入浴でしっかり温まり血行を促進する
立ちっぱなし、座りっぱなしの状態を避ける
アルコールや刺激の強い食べ物を控える
排便時に力みすぎないようにする
排便後はおしりを丁寧に、かつ優しく拭く
食生活や生活習慣を見直し、体調を整える
適度な運動で腸の活動を促す
おしりや腰回りを冷やさないようにする
ストレスを溜めないよう、適度に解消する

ぜひ今日から、できる範囲で取り組んでみてください。

まとめ

痔瘻は男性に多い疾患ですが、女性にあらわれることもあります。

自然治癒や市販薬での治癒は望めないため、できるだけ早く肛門科・肛門外科を受診しましょう。

一方、裂肛や痔核は、男性よりも女性に多く見られる疾患です。

これらの痔は普段から予防に取り組めるほか、市販薬も販売されています。

まずは医師の診断を受けることが前提です。

その上で市販薬を購入する場合には、ドラッグストアにいる薬剤師や登録販売者と相談しながら選びましょう。

痔に関する市販薬は、スギ薬局でも取り揃えています。

気になることがあればお気軽にスギ薬局の薬剤師や登録販売者にお声がけください。

【監修者情報】

白畑教授

医師：白畑敦

昭和大学医学部を卒業後、昭和大学藤が丘病院、市中病院で消化器外科医として勤務。

大腸肛門病疾患でも研鑽を積み、2017年しらはた胃腸肛門クリニック横浜を開設。

大腸疾患（内視鏡治療・便秘治療・炎症性腸疾患など）・肛門疾患（痔核手術・便失禁治療など）を専門分野として診療。